マイコンの役割
PICマイコンとは?PICマイコンとCPUの違いとは?入力装置・出力装置とそれらを制御するプログラムなどの要素を紹介します。
1-2-1.マイコンとは?
「マイコン」には、「マイクロコンピューター」や「マイコンピューター」など、いくつかの意味がありますが、PICマイコンの「マイコン」は、マイクロコントローラーユニット(MCU:Microcontroller Unit)の略称です。マイクロコントローラーユニットは、主に組み込みシステムの中核をなす部品として使われます。組み込みシステムとは、「特定の目的を持った装置・機械などを制御するためのシステム」であり、これらを用いた装置や機械には次のようなものがあります。
- 家庭用電化製品やオーディオ製品
- コンピューター周辺機器
- 自動車
- 医療用機器
- 玩具
- 電源制御や照明制御
昨今、先進的な安全技術・環境対応技術の実用化が進む自動車には、ブレーキやステアリングなどの制御対象ごとに電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)と呼ばれる組み込みシステムがあり、一台あたり数十個から数百個のマイクロコントローラーユニットが使われています。また、エアコン・洗濯機・冷蔵庫・空気清浄機などの身近な家電製品にも使われ、これらを構成する上で必要不可欠な存在となっています。
このように、マイクロコントローラーユニットは、現代社会を陰で支える電子技術の一つであり、そのニーズはますます多様化・高度化する傾向にあります。
1-2-2.マイコンの役割と動作
マイクロコントローラーユニットには、どのような役割があるのでしょうか。家庭用のエアコンを例にとって、マイクロコントローラーユニットの役割をみてみましょう。
家庭用のエアコンは、室内機・室外機・リモコンで構成され、室外機内のコンプレッサー(圧縮機)で温度を調整しています。図1-2-2-1に簡略化したエアコンのブロック図を示しました。このブロック図中の番号に沿って、マイクロコントローラーユニットの動作を説明します。なお、動作を分かりやすく説明することを目的としているため、実際の製品とは異なることをご了承ください。
では、利用者が、リモコンを操作してエアコンの運転を開始した後、自動で温度調整が行われるまでの流れをみてみましょう。
- 利用者がリモコンの運転ボタンを押す。
- 赤外線センサーで信号を受信する。
- リモコンの信号を受信したことを知らせるブザー音(ピッ)を鳴らす。
- 運転中ランプを点灯させる。
- 保存している温度・風力・風向などの情報を読み出し、運転を開始する。
- ルーバーに取り付けられたステッピングモーターを制御して、風向を調整する。
- ブロアーファンに取り付けられたモーターを制御して、風力を調整する。
- 温度センサーで室温を測定する。
- 室温と設定温度を比較する。
- コンプレッサーの回転数を制御して、温度を調整する。
上記の(2)以降は、すべてマイクロコントローラーユニットの動作です。図1-2-2-1のブロック図を見ると、黄色のブロックで示されたマイクロコントローラーユニットを中心として、各種センサー・各種モーター・コンプレッサーなどの装置が接続されているのがわかります。接続された装置には2種類あり、青色のブロックで示された各種センサーを「入力装置」、赤色のブロックで示された各種モーター・コンプレッサーなどを「出力装置」といいます。マイクロコントローラーユニットには、エアコン専用のプログラムがプログラムメモリーという領域に書き込まれており、また、プログラムメモリーとは別に、設定温度・風力・風向などの情報を保存するためのデーターメモリーという領域を備えています。
図1-2-2-2に、最も簡単なマイクロコントローラーユニットの構成をブロック図で示しました。
このブロック図は、マイクロコントローラーユニットで実行されるプログラムにより、入力装置からの信号を読み取り、決められた動作に従って、出力装置を制御するようすを表しています。例えば、リモコンからの信号を赤外線センサーで受信して、その信号が「運転開始」を意味するものであれば、ブザーを鳴らし、運転ランプを点灯させるという一連の動作もプログラムにより決められています。
つまり、マイクロコントローラーユニットの役割とは、「入力装置からの信号を読み取り、プログラムによって決められた動作に従って、出力装置を制御すること」なのです。入力装置・出力装置とそれらを制御するプログラムは、マイクロコントローラーユニットの動作を考える上で、とても大切な要素です。ぜひ、覚えてください。
では、入力装置・出力装置には、どのようなものがあるのでしょうか。図1-2-2-1で示したエアコンに使われる入力装置・出力装置以外にも、さまざまな装置が目的に応じて使用されています。いくつか例をみてみましょう。
入力装置の例
- スイッチ
- ジョイスティック
- タッチパネル
- 光センサー
- 加速度センサー
- 距離センサー
出力装置の例
- LED
- 液晶ディスプレイ
- スピーカー
- サーボモーター
- リレー
実際の回路では、入力装置・出力装置は、専用の制御回路や駆動回路などを介して接続されたり、マイクロコントローラーユニットによっては、入出力装置を接続する専用回路が搭載されているものもあります。また、マイクロコントローラーユニットを動作させるために、バッテリーや商用電源から安定した電圧を供給する電源回路が必要です。
エアコンが現在のように細かく温度調整できるようになったのは、コンプレッサーの回転数を制御するインバーターという技術によるものです。従来、インバーター制御には、専用の回路が必要で高価なものでしたが、同機能をマイクロコントローラーユニットで行うことにより、安価に小型な製品にも搭載することが可能となりました。
また、室温を測定するだけでなく、人の体の温度変化を感知して温度を調整したり、人や家具の配置を認識して風の流れを調整するなど、マイクロコントローラーユニットの搭載により様々な機能が内蔵され、今や省エネ化の重要なアイテムとなっています。
1-2-3.PICマイコンとCPUの違い
PICマイコンは、マイクロコントローラーユニット(MCU)であり、主に組込みシステムの中核として使用されることが分かりました。ところで、マイクロコントローラーユニットとよく似ている、マイクロプロセッシングユニット(MPU:Microprocessing Unit)という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
マイクロプロセッシングユニットとは、ワンチップ化されたコンピューターの演算処理装置のことであり、パソコンに搭載された中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)とほぼ同義語です。では、PICマイコンとパソコンに搭載されたCPUは、何が違うのでしょうか。
まず、各々の構成を比較してみます。
一般的なパソコンは、CPUを中心として、読み出し専用のROM(Read Only Memory)や読み書き可能なRAM(Random Access Memory)などの「メモリーチップ」・周辺装置との入出力を行う「I/O制御チップ」などで構成され、それらが「バス」と呼ばれる信号線で接続されています。バスには、アドレスバス・データーバス・コントロールバスなどがあり、その本数は、数十本以上になるため、複雑な回路が必要になります。主に、マザーボードと呼ばれるCPU専用の基板と組み合わせて利用されます。周辺装置には、ディスプレイ・ディスク・キーボードやマウスなどのUSB機器・ネットワークなどがあり、それぞれ専用のI/O制御チップによって接続されています。図1-2-3-1は、マザーボード上に配置されたCPU・メモリーチップ・I/O制御チップの構成図です。
一方、PICマイコンは、ワンチップ化されたマイクロコントローラーユニットで、一つのチップ内にCPU・メモリー・I/O制御、さらには「周辺モジュール」と呼ばれる特定の機能を実行する回路を搭載しています。ワンチップ化により、マザーボードと同じような機能を内蔵することで、複雑な回路が不要となり、とてもシンプルな構成でマイクロコントローラーユニットを動作させることができます。図1-2-3-2は、PICマイコンの内部に配置されたCPU・メモリー・I/O制御・周辺モジュールの構成図です。
次に、メモリーの大きさとCPUの動作周波数を比較するために二つの表を用意しました。表1-2-3-1は、パソコンに搭載されるCPUの代表として「Intel Core i7-7700」、表1-2-3-2は、PICマイコン(8ビット系)の値です。これらの値をみると、メモリーの大きさ・CPUの動作周波数いずれも圧倒的な差があります。
外付けメモリー | 最大 64 Gbytes |
---|---|
CPU動作周波数 | 3.6 GHz 4.2 GHz(ターボブースト利用時) |
プログラムメモリー | 384 bytes ~ 128 Kbytes |
---|---|
RAM | 16 bytes ~ 8,192 bytes |
CPU動作周波数 | 4 MHz ~ 64 MHz |
パソコンは、macOSやWindowsなどのOS(Operating System)が常に動作し、その管理下でワープロ・表計算・メール・ブラウザなどの幅広いアプリケーションが動く、汎用システムです。時代の変化とともに多様化する利用者の要求に応えるため、パソコンに搭載されたCPUは高機能化・高速化・大容量化してきました。
一方、PICマイコンは、組み込みシステムの中核として、特定の目的に用いられる専用システムです。組み込みシステムは、小型・低消費電力・低価格でありながら、かつ豊富な機能が望まれるという、二つの相反する要求を両立させなければなりません。その要求に応えるため、組み込みシステムの技術者が必要とする最低限の機能を提供できるように、バリエーションが豊富に用意されています。例えば、入出力ピンを含む総ピン数は、6ピンから100ピンまでの12種類、プログラムメモリーのサイズは、384バイトから128Kバイトまでの20種類以上があります。また、周辺モジュールと呼ばれる専用回路には、コンパレーター・ADコンバーター・DAコンバーター・USB通信など50種類以上あり、これらは必要なものだけが使用できるように、さまざまな組み合わせで用意されています。このように、PICマイコンは、高機能化・高速化・大容量化するのではなく、多様化させることで、技術者の要求を満たしてきたのです。
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