小学校で学ぶ電気とmicro:bit
「8-4.micro:bitをすすめる理由」では、micro:bitを小学校におけるプログラミング教育に採り入れる魅力について、micro:bitの特徴を中心に紹介しました。ここでは「小学校で学ぶ電気とmicro:bit」と題して、電気の学習内容を中心にして、micro:bitをプログラミング教育に採り入れる魅力を探ります。
8-5-1.小学校で学ぶ電気とmicro:bit
まず、小学校で学習する「電気」について、2020年度から実施される新しい小学校学習指導要領で見てみましょう。電気は、第3学年から第6学年の4年間、理科の学習内容である区分「A 物質・エネルギー」の中で学びます。
第3学年の単元「電気の通り道」
第3学年では、単元「電気の通り道」で、乾電池1個と豆電球1個を導線でつなぎ、回路ができると電気が通り、豆電球が点灯することを学習します。また、回路の一部に、さまざまな身近なものを入れ、豆電球が点灯するかどうかを調べることで、電気を通すものと通さないものがあることを学びます。
単元「電気の通り道」では、乾電池(かん電池)・豆電球・ソケット・導線(どう線)・回路・プラス極(+きょく)・マイナス極(-きょく)といった言葉を習います。
〔第3学年〕
2 内容
A 物質・エネルギー
(5) 電気の通り道
電気の回路について,乾電池と豆電球などのつなぎ方と乾電池につないだ物の様子に着目して,電気を通すときと通さないときのつなぎ方を比較しながら調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(ア)電気を通すつなぎ方と通さないつなぎ方があること。
(イ)電気を通す物と通さない物があること。
イ 乾電池と豆電球などのつなぎ方と乾電池につないだ物の様子について追究する中で,差異点や共通点を基に,電気の回路についての問題を見いだし,表現すること。
小学校学習指導要領(平成29年告示) (Page.96)
第4学年の単元「電流の働き」
第4学年では、単元「電流の働き」で、乾電池2個を使って、豆電球を点灯させたり、モーターを回したりすると、その明るさや回転数が増す場合と、乾電池1個と変わらない場合があることから、電流の強さとの関係を学習します。また、モーターでプロペラを回したり、自動車を走らせることで、電流に向きがあることを知ります。
単元「電流の働き」では、電流・電流の向き・検流計(けん流計)・直列つなぎ・並列つなぎ(へい列つなぎ)・スイッチ・モーターといった言葉を習います。
〔第4学年〕
2 内容
A 物質・エネルギー
(3) 電流の働き
電流の働きについて,電流の大きさや向きと乾電池につないだ物の様子に着目して,それらを関係付けて調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(ア)乾電池の数やつなぎ方を変えると,電流の大きさや向きが変わり,豆電球の明るさやモーターの回り方が変わること。
イ 電流の働きについて追究する中で,既習の内容や生活経験を基に,電流の大きさや向きと乾電池につないだ物の様子との関係について,根拠のある予想や仮説を発想し,表現すること。
小学校学習指導要領(平成29年告示) (Page.99)
第5学年の単元「電流がつくる磁力」
第5学年では、単元「電流がつくる磁力」で、コイルに鉄心を入れて電流を流すことで、鉄心が磁石になることを知り、乾電池の数やコイルの巻き数によって、電磁石の力が変化することを学びます。また、電流の向きによって、電磁石の極性が変わることを学習します。
単元「電流がつくる磁力」では、コイル・電磁石(電じしゃく)といった言葉を習います。
〔第5学年〕
2 内容
A 物質・エネルギー
(3) 電流がつくる磁力
電流がつくる磁力について,電流の大きさや向き,コイルの巻数などに着目して,それらの条件を制御しながら調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(ア)電流の流れているコイルは,鉄心を磁化する働きがあり,電流の向きが変わると,電磁石の極も変わること。
(イ)電磁石の強さは,電流の大きさや導線の巻数によって変わること。
イ 電流がつくる磁力について追究する中で,電流がつくる磁力の強さに関係する条件についての予想や仮説を基に,解決の方法を発想し,表現すること。
小学校学習指導要領(平成29年告示) (Page.103)
第6学年の単元「電気の利用」
第6学年では、単元「電気の利用」で、手回し発電機や光電池(第4学年から第6学年へ移行)などを使うことで、自分で電気をつくったり、コンデンサーなどの蓄電器を使って、つくった電気を蓄えることができることを学習します。また、豆電球やモーターの他に、電子オルゴールや電熱線を使うことで、電気が光・運動・音・熱などに変換できることを学び、身の回りには、電気の性質や働きを利用したものが数多くあることに気づかせます。
単元「電気の利用」では、手回し発電機・光電池・コンデンサー・プラス端子(+たんし)・マイナス端子(-たんし)・電熱線・電子オルゴール・発光ダイオードといった言葉を習います。
〔第6学年〕
2 内容
A 物質・エネルギー
(4) 電気の利用
発電や蓄電,電気の変換について,電気の量や働きに着目して,それらを多面的に調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(ア)電気は,つくりだしたり蓄えたりすることができること。
(イ)電気は,光,音,熱,運動などに変換することができること。
(ウ)身の回りには,電気の性質や働きを利用した道具があること。
イ 電気の性質や働きについて追究する中で,電気の量と働きとの関係,発電や蓄電,電気の変換について,より妥当な考えをつくりだし,表現すること。
小学校学習指導要領(平成29年告示) (Page.107)
電気をつくる・ためる・つかう
このように4年間で「電気をつくる・ためる・つかう」ことを学習して、発電によってつくられた電気が、光・音・熱・磁力・運動などに変換されて利用されることを体験的に学びます。この学びによって、私たちの身の回りにある電気製品が、電気を光・音・熱・磁力・運動などに変えて利用している物であることを知り、便利で豊かな暮らしは「電気の働き」のおかげであると気づきます。
しかしながら、今日では、身の回りの電気製品をはじめ多くのものにコンピューターが内蔵されています。電気を光・音・熱・磁力・運動などに変えて利用するだけでなく、コンピューターによって、より高度に、より複雑に制御することで、私たちの生活はさらに便利で豊かなもの、かつ安心・安全なものになっています。
プログラムの存在に気づくこと
小学校におけるプログラミング教育のねらいのひとつに「論理的思考力を育むとともに、プログラムの働きやよさ、情報社会がコンピュータをはじめとする情報技術によって支えられていることなどに気付き、身近な問題の解決に主体的に取り組む態度やコンピュータ等を上手に活用してよりよい社会を築いていこうとする態度などを育むこと」があります。
そのためには、まず、身の回りの物にコンピューターが内蔵され、そのコンピューターに人が適切な命令をあらかじめ与えることによって、使う人が求める動きになることに気づくことが必要です。例えば、おいしいご飯が食べられるのは「炊飯器にコンピューターが内蔵され、そのコンピューターに人が適切な温度調節や過熱時間などの命令をあらかじめ与えているから」という気づきです。
端的に言えば、コンピューターに人が適切な命令をあらかじめ与える行為が「プログラミング」であり、適切な命令が「プログラム」です。先ほどの例を言い換えると、おいしいご飯が食べられるのは「炊飯器にコンピューターが内蔵され、適切な温度調節や過熱時間などを行うようにプログラミングされているから」となります。
この「○○にコンピューターが内蔵され、○○するようにプログラミングされている」という「気づき」がとても重要です。この気づきによって「自動車にコンピューターが内蔵され、自動車の前に人が飛び出すと停止するようにプログラミングされている」、「エアコンにコンピューターが内蔵され、人が快適に過ごせる室温になるようにプログラミングされている」などといった視点で身の回りの物を見ることができるようになります。
つまり、小学校の4年間で学ぶ「電気をつくる・ためる・つかう」に、プログラミング教育を加えることで、身の回りの多くの物にコンピューターが内蔵され、求める動きになるようにプログラミングされていることに気づくことができるのではないでしょうか。さらに、この気づきによって、コンピューターを上手く活用すれば、身近な問題を解決したり、よりよい社会を築いたりすることができるのではないかという、次の気づきへと繋がることが期待できます。
気づきのきっかけを与える
教育の現場では、学習の理解をより深めたり、興味・関心を引き学習意欲を高めるための「教材」が使われています。図8-5-1-3は、単元「電気の通り道」で使用する教材の一例です。乾電池と豆電球を使って、電気が流れる回路をつくることで、電気を光へ変えて利用することを体験的に学びます。
さらに、豆電球をモーターや電磁石に置き換えることで、電気を運動や磁力に変えて利用することや、乾電池を手回し発電機とコンデンサーに置き換えることで「電気をつくる・ためる・つかう」といったことを体験的に学びます。
しかしながら、前述したように、私たちの身の回りには、これらの「電気をつくる・ためる・つかう」に加えて、コンピューターを内蔵し、プログラムで制御された物が数多くあふれています。これからの社会を生きていく子供たちにとって、小学校の段階で「○○にコンピューターが内蔵され、○○するようにプログラミングされている」という「気づき」がとても重要になってきます。
この気づきのきっかけを与えるために、小学校へ導入されている教材を使って「電気をつくる・ためる・つかう」に「プログラムで制御する」を加えて体験的に学ぶことができるなら素晴らしいことではないでしょうか。それを可能にするのが、教育用として開発された小型のコンピューターボードであるmicro:bit(マイクロビット)なのです。
micro:bitと教材の組み合わせ
micro:bitと教材を組み合わせた例を紹介します。図8-5-1-4は、micro:bitで豆電球を制御する一例です。豆電球を任意の間隔で点滅させたり、暗くなったら点灯・明るくなったら消灯させるといった動きを、プログラミングによって体験することができます。
また、図8-5-1-5のように豆電球をプロペラ付きのモーターと置き換えることで、温度によって強弱が変わるようにプログラミングされた扇風機を作ることもできます。
micro:bitを小学校におけるプログラミング教育に採り入れる魅力について「8-4.micro:bitをすすめる理由」で紹介しています。ぜひ、こちらもお読みください。